目指す処が自然体な以上、自然の理に叶った肉体と精神となる。「手を上げるのも、足拍子を踏むのも首を振るのでさえも腰でするのだ」

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むら版 続・踊るヒント見るヒント 村 尚也


続・踊るヒント見るヒント 村尚也 演劇出版社出版事業部 より

洋舞系の人々やスポーツマンが若い時の華々しい活躍に比して、早く引退を迎えてしまうのは、解剖学の知見では、肉体の可能性追求によるストレスが大きな要因と考えられる。

日舞系はどうか? いるわ、いるわ! 長寿で、しかも現役組が。一般社会では老人と言われる人々が一番の働き手であり、表現者なのである。これは何故か?

まず洋舞の動きとまるで違う点は、日舞は姿勢と動きに自然体を求める事。何が自然であるか、いやどうすれば自然に流れ、自然で無理ない形と目に映るかを主眼とする。その為に造型訓練必要ではあるが、目指す処が自然体な以上、自然の理に叶った肉体と精神となる。102-103P

日舞の基本は何といっても「腰」にあります。日常の言葉でも「仕事に本腰が入って来た」「腰が落ちつく」「腰が座って来た」と人生、精神の安定を「腰」を比喩的に使って申します。踊りの神様と言われた七世坂東三津五郎も「手を上げるのも、足拍子を踏むのも首を振るのでさえも腰でするのだ」と仰言ったとか。

腰を日舞の動きの原点とした場合、どうなるのか? 手振り足振りが大きく見える事は誰でも想像がつくでしょう。107-108P

引用ここまで


私が身体操作指導で心がけていることは、「特殊な動きをしないこと」です。自然な動きを目指すようにしています。いわゆるアクロバティックな動き=「曲芸的な動き・軽業(かるわざ)的な動き」を目指すことはありません。他者を驚かせる離れ業(普通の人にはできないような動き)を身につけるメリットはそれほどなく、常人には行いがたい身体運動によるデメリットの方が大きいからです。

クロバットacrobat)の語源は、「つま先立って歩く(ギリシャ語)」だそうです。狭く細いところを歩く……見世物として綱渡りをする曲芸師がイメージできます。職業として曲芸・軽業をするとか、趣味としてするのはいいのですが、ダメージとの等価交換であることを忘れてはならない気がします。そして、アクロバティックな動きは、それを身につける労力と時間に比して、飽きられるのは一瞬という現実があります。

対して、自然体を目指した場合はどうでしょか? 日常生活における立ち居振る舞いのすべてが舞となるわけで、そのメリットは計り知れません。

腰が動きの基本ということは、骨盤の安定が基本ということです。他の部分を効果的に動かせるのは、腰が安定しているからなのです。関節には、「スタビリティ関節(安定させるための関節)」と「モビリティ関節(動かすための関節)」があります。うまく動けない人は、「正しい動きを知らないから動かせない」ということになります。

うまく動けない人ほどマッサージやストレッチングを好みますが、結果として動きがますます不自然になっていきます。最新の研究では、可動域が制限される原因のほとんどは神経系の問題だとされているようです。つまり、正しく運動をすることで制御機能を脳・神経系にもたせるしかないということになります。

「腰」に注目して、動きを改善していく必要があるように思います。