大蛇之儛(舞ひ)

大蛇面をつけて舞う儛人のブログ

阿知女作法と阿度部磯良と安曇氏

あじめのさほう【阿知女作法】

御神楽(みかぐら)で,儀式の始まる前その他重要なふしめふしめに唱えられる呪文のような歌詞の曲。〈あちめのさほう〉ともいう。本方(もとかた),末方(すえかた)の歌人各1人が〈あぢめ おおおお〉〈おけ〉を交互に唱える。笏拍子(しやくびようし)を打ち和琴が伴奏する。〈阿知女〉を呼び出しそれに答える形というが,〈阿知女〉は意味不明。海底の神阿度部磯良(あどめのいそら),天宇受売(あめのうずめ)等の諸説がある。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

■【阿知女作法】より
…御神楽(みかぐら)で,儀式の始まる前その他重要なふしめふしめに唱えられる呪文のような歌詞の曲。〈あちめのさほう〉ともいう。本方(もとかた),末方(すえかた)の歌人各1人が〈あぢめ おおおお〉〈おけ〉を交互に唱える。笏拍子(しやくびようし)を打ち和琴が伴奏する。〈阿知女〉を呼び出しそれに答える形というが,〈阿知女〉は意味不明。海底の神阿度部磯良(あどめのいそら),天宇受売(あめのうずめ)等の諸説がある。…

【細男】より
…礒良は出現にあたり,顔の醜いのを隠すため,浄衣(じようえ)の袖を解いて顔を覆い,首に鼓をかけて細男舞を舞って現れたという。この話と宮廷の御神楽(みかぐら)の〈阿知女作法(あじめのさほう)〉を結びつけ,細男を御神楽のおりの〈才の男(ざいのおのこ)〉の転とする説もあるが,批判的見解が多い。現在奈良春日若宮の御祭(おんまつり)に出る細男は,浄衣・白覆面・烏帽子姿の者6人が1組で,鼓打ち2,笛吹き2,他の2人は無手で舞う。…

【御神楽】より
…以下の構成は,〈採物〉〈小前張(こさいばり)〉〈星〉という三つの違った傾向をもつ神楽歌のグループから成るが,ここで現行神楽歌一具(御神楽における神楽歌次第)を掲げる。(1)人長式の部 《神楽音取(かぐらのねとり)》《庭火》《阿知女作法(あじめのさほう)》。(2)採物の部 《問籍音取(もんじやくのねとり)》《榊(さかき)》《閑韓神(しずからかみ)》,《早韓神(はやからかみ)》(人長の舞あり)。…

株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

 

 折口信夫は、「阿知女作法は、海の底深くいます阿度部磯良神に呼びかける歌であり、安曇(阿曇)氏と深い関わりがある」と、洞察しています。

 神功皇后は、三韓征伐のため軍勢を牽き連れて新羅へと渡る時に、神々を召し集め、その助けを得ようとしましたが、唯、一柱、姿を見せぬ神がありました。阿度部磯良は、海草などに覆われた自らの容貌を醜いと羞じて、なかなか現われません。この神を呼び出すために唱えられたのが……阿知女作法。

安曇氏は、阿度部磯良を祖神とする海人です。 

参考文献:折口信夫全集 第十二巻 上世日本の文學 中央公論社

 

 平安時代の宮廷において民俗の始原を語る神楽の始まりには、「阿知女、於、於、於、於」と唱和され、古代芸能の偶像であったと考えられます。

 磯良神は、西日本各地で傀儡・遊女が祀る百太夫・白太夫の神として祀られています。古代においては、遊女・白拍子・傀儡の社会的地位は低くはなかったようです。諸国を遍歴し、芸能を通じて神々に奉仕する祭祀集団を形成していました。交通税や課役を免除されていたそうです。

 

相撲(すもう)=素舞(すまい) 「すまひ」は「素舞」で力強い「しこ」(醜足)を踏むことに本来の意味がある。邪を祓う舞踏。

『民俗小事典 神事と芸能 吉川弘文館』より

 現行の相撲には大相撲のような競技相撲のほかに祭儀相撲がある。

 二人が向かい合い高く足を挙げて足踏みを繰り返し、最後に肩を抱き合って飛び廻る。

 神主から授かった榊の枝を「ホーイホーイ」の掛声に合わせて上げ下げしながら拝殿の周囲をゆっくりと歩き廻る。

 野神をまつる塚の上で、子どもらが二人ずつ向かい合い行事の合図で手を叩いて万歳をする。

 あたかも相手がいるかのように一人で相撲が演じられる。その場合、相手を神としてその勝敗によって年を占うとする例が多い。大山祇神社では、田の神と相撲をとって豊凶を占うといい、力士一人があたかも相手がいるごとくに相撲の手を演じながら土俵上を廻る。

 このように民俗の信仰行事の中で伝承されてきた祭儀相撲は、足踏みをするだけとか手を叩くだけ、あるいは肩を抱き合うだけで競技をしないのが特徴である。

 「すもう」は「逆らう」「抵抗する」ことを意味する動詞「すまう」の名詞化で古くは「すまひ」と称された。

 「すまひ」は「素舞」で力強い「しこ」(醜足)を踏むことに本来の意味がある。

 日本の相撲の起源を語ったとされる『日本書紀垂仁天皇紀の当麻蹴速(たいまけはや)と野見宿禰(のみのすきね)の相撲も「片足を挙げて相踏む。即ち当麻蹴速が脇骨を踏み折(さく)。亦其の腰を踏み折(くじ)きて殺しつ」と「しこ」を繰り返すものであった。これは悪霊や死霊や荒魂を踏み鎮めて社会を安全にする呪的足踏みで、もと「ダダ」、のちに反閇といわれるものにあたり、日本の祭儀と芸能におけるもっとも神聖な動作として伝承されてきたものである。

 このように「素舞」は宗教者の行なう鎮魂の呪的動作であったが、のちに鎮める役と抵抗する役が互いに威嚇し、争いあう物真似を演じる「相舞(すまい)」となり、悪霊を祓う力が強ければ強いほど大きな神の恩恵が得られるという信仰から呪力と体力が同一視されるようになって力競べが始まり競技化されていった。

 しかしその呪術性ゆえに農作物の豊凶を占う年占や雨乞い、地鎮にも用いられ、朝廷の節会の行事としても取り上げられたものと思われる。奈良時代末期頃から始まった相撲節には毎年諸国から相撲人を召し、左右に分かれて競技が行われていた。この相撲節に舞楽が行なわれるようになったのも、仮面をつけて地を踏み蹴る動作が相撲と同じように災禍を祓う呪的な力をもつものだったからであろう。

引用ここまで

 

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河童 益次郎@吉福社中

「相撲」は、古くは「素舞(すまい)」。邪を祓う舞踏呪術でありました。私の舞は醜足(しこあし)を多用します。

「おれより仕合わせになれ」~大蛇退治の場面がない素戔嗚尊/老いたる『素戔嗚尊(芥川竜之介)』

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素戔嗚尊 芥川龍之介

www.aozora.gr.jp

 

www.aozora.gr.jp

 

え?

大蛇退治は(笑)?

 

「おれはお前たちを祝(こと)ほぐぞ!」

 素戔嗚は高い切り岸の上から、遙かに二人をさし招いだ。
「おれよりももつと手力(たぢから)を養へ。おれよりももつと智慧を磨け。おれよりももつと、……」


 素戔嗚はちよいとためらつた後、底力のある声に祝ぎ続けた。
「おれよりももつと仕合せになれ!」
 彼の言葉は風と共に、海原の上へ響き渡つた。この時わが素戔嗚は、大日孁貴(おおひるめむち)と争つた時より、高天原の国を逐おはれた時より、高志(こし)の大蛇(をろち)を斬つた時より、ずつと天上の神々に近い、悠々たる威厳に充ち満ちてゐた。

隼人族の風俗舞のすがた~黙劇・無言劇~声を用いず,身体の動きや顔の表情のみを表現手段とする芸能。

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隼神 空幸彦 愛称「ぶさお」

【芸能】より
記紀の海幸・山幸(うみさちやまさち)説話に見えるウミサチヒコがヤマサチヒコの前で溺れるさまを演じたという所作などは,宮廷の祭儀の折に行った隼人族の風俗舞のすがたを伝えるものである。またこの時代,允恭天皇の大葬に新羅(しらぎ)王が楽人(うたまいびと)80人を献ったとの《日本書紀》の伝えのあるのをはじめ,612年(推古20)には百済(くだら)人によって中国の伎楽がもたらされ,さらに中国の舞楽や散楽が次々に伝来して宮廷および周辺の寺院などの歌舞は一挙に華麗なものとなった。701年(大宝1)には雅楽寮の制が成り,外来楽を基盤としての楽人,舞人の養成が国家的規模で行われ,平安時代には管絃,舞楽(雅楽)が宮廷や大寺の儀式に欠かせぬものとなった。出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

■パントマイム【pantomime】


演者が声を用いず,身体の動きや顔の表情のみを表現手段とする芸能。単に〈マイムmime〉ともいい,〈黙劇〉〈無言劇〉などの訳語・用語も用いられる。


[パントマイム前史]
 pantomimeという言葉は,その語源をさかのぼれば,古代ギリシア語のpantōs(すべて(に))とmimos(ものまね)の合成語pantomimosであり,この言葉自体は古代ギリシアの多くの文献に見ることができる。

 しかし,このような〈ものまね〉あるいは〈呪術的模倣所作〉とでも称すべきものは,周知のように,演劇一般の〈始源的形態〉にほぼ共通して見ることができる重要な一構成要素であり,そのようなものの一種として,古代ギリシアにおいては先のmimos(あるいはpantomimos)という言葉で表現される〈ものまね〉を中心とした座興的な雑芸(これを演劇史で〈ミモス劇〉などとも呼ぶ)が行われていたことは事実であるにせよ,それが今日のパントマイムに通じる一つの独立した芸能ジャンルであったとは言いがたく,演劇史では,ふつうパントマイムの起源を,古代ローマのパントミムスpantomimusに求めることが行われている。


出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

 

マイム?パントマイム?」より

 マイムとは紀元前6世紀くらいまでさかのぼってドリアン地方でおこなわれていたドリアンマイムというのが一番古くまでさかのぼれるマイムの原型ですが、その頃はマイムとは雑多な芸の総称のようなものでした。つまりアクロバットとか綱渡りとか歌手、あるいは台詞役者といった雑芸を総称してマイムとひとまとまりに呼んだらしいのです。もともとこのマイム、mime とはmimosという言葉からきており、その意味はmimesthaiという動詞の動作主名詞(agent noun,つまりその動作をする主体)でした。そしてこのmimesthai という動詞がまた面白い起源をもっていて、なんと初期においては声帯模写をすることを意味していたというのです。つまりマイムの原型は形態模写ではなく、声帯模写だったのかもしれません。自然の音や動物の鳴き声を模倣する芸であった可能性もあるのです。やがてこれが形態模写を意味するようになり、その行為を行う者をmimosとよびました。あるいはその行為自体もmimosとよばれました。真似をする、模倣をするという意味あいにおいては一般的な役者を指す言葉であったともいわれます。つまり決定的にパントマイムと違うのはその芸はかなり雑多であり、大いに音や声を使った芸であったという事です。

 そういった意味合いにおいては日本の平安時代前後に中国あたりから伝えられた散楽とも似ていると思います。この散楽も様々な雑多な芸が寄り集まったものだという事です。やがてこの散楽が猿楽となり、そして田楽などと融合することによって現在の能楽の原型ができたといわれています。

引用ここまで

マイムとパントマイムの違い」より

 アリストテレスの『詩論』の芸術論の定義「現実の根源を知るために、虚の場において実を真似または模写すること」の定義の中核をなすミメーシス(真似すること)から始まり、ローマ時代になってからは、mimeまたはpantomimeの2つの呼称が演者自身か、あるいは観るものからその内容によって交互に代って呼称されたのです。

 panvitanという薬がありましたが、それはpan-vitaminを略したもので「すべてのヴィタミンを含んでいる」ことを示しています。panはpantoで「すべて」です。それでmime(真似する演技)もpantomime(すべてを真似する)も同じなのです。

 原初のミメーシスから分離したダンスもパントマイムも演劇も根源的なものを失っているということです。

 能楽の出発の“猿楽”も、あれは猿真似でなく、“実”を“虚”の場でミメーシスしたことでしょう。

 猿楽は散楽が訛ってそのようになったものとも聞きます。散楽は大陸から来ました。その基はシルクロードを渡ってもたされたヘレニズム文化ともいいます。散楽は現在の能楽とは違う様々な要素がありましたが、その核となるものは「物真似」と呼ばれるマイム芸だったようです。室町期に「幽玄」という要素が入り現在はそちらのほうが能楽らしい、といった感じですが、実際は「物真似」を主とした表現がたくさん残っており、その表現もとても豊かなものだと感じております。

引用ここまで

■散楽

 散楽とは、中国から伝わった、滑稽な物まね、曲芸、呪術など多種多様な芸一般を広く指します。のちに散楽が発展して能・狂言の元になりました。出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について

■さんがく【散楽】
 古代日本に伝来した大陸の芸能。物まね,軽業,曲芸,幻術などを中心とする娯楽的な見世物芸で,百戯,雑技ともいわれた。渡来以前の日本にも俳優(わざおぎ)や侏儒(ひきうど)の芸能が宮廷に集中されたことがあったが,新たに伝わった散楽は令制では散楽戸で伝習された。散楽に関する文献は少ないが,正倉院蔵〈弾弓図〉〈散楽策問〉《信西古楽図》などから想像するに,軽業や曲芸,奇術や幻術,滑稽・物まねの三つがおもな内容であったと思われ,簡単な楽器で伴奏されたと推定される。出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

■散楽の歴史

 上古に大陸から輸入された散楽(さんがく)は,曲技,歌舞,物まねなど雑多な内容を含むものだったらしいが,平安時代に笑いの芸能に中心が移り,発音も〈さるがく〉と変わり,文字も猿楽,申楽などと書かれるようになった。その発達を遂げたものが狂言である。出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

■能・狂言の先祖
 もともと散楽は寺社の祭礼で演じられ、国土安穏〔こくどあんのん〕・天下泰平〔てんかたいへい〕を祈祷する事を主な目的としていました。 その後いつしか、一般庶民の娯楽となり、散楽が訛って猿楽となりました。大道芸としての道を歩んだ猿楽は、散楽よりもより大道芸的な要素の濃いものになり、また、猿楽とは別に、散楽と農村で行われていた楽芸とが結びついてできた、「田楽」というものが現れました。この芸能は、もともと農村の田植えを囃し立てる為に生まれ、発展しました。その後、猿楽と田楽は現在の能・狂言へと向かって融合・発展していきました。日本文化いろは事典

■起源・歴史散楽が訛って猿楽に
中国の唐の時代に雅楽と共に日本に伝わりました。
当時の日本は奈良・飛鳥時代で、楽戸という国立の機関を作り、国を挙げて散楽の発展に力を入れました。寺社などの祭礼で演じられたり、貴族などの上流階級の間での娯楽として普及しました。その後、平安時代の訪れと共に、楽戸は廃止されますが、散楽は一般庶民の間に伝わり、広く人気を集め、寺社の祭礼で演じられたり、大道芸として演じられたりするようになりました。いつしか散楽が訛って、猿楽となり、それが現在の能・狂言の元祖になりました。日本文化いろは事典

■演目多種多様な芸
散楽の内容は、主に曲芸や軽業、物まね、呪術、奇術などです。
今の中国雑技団のような曲芸や軽業〔かるわざ〕、猿の物まね、「火を吹く術」「刀を呑む術」といった呪術を見せたりと、多種多様な芸がありました。散楽は日本古来の芸能の影響を受けて、やがて猿楽と言う芸能に発展し、そこから台詞と仕草による滑稽な物まね芝居が「狂言」へ、音楽と舞踊による活劇が「能」になりました。日本文化いろは事典

 

 

 

 

舞い方(後編)

■大左右・左拍子~おおざゆう・ひだりびょうし

 左右の変形で、扇を広げて行なうことが多い。大左右の場合は、左へ3足、右へ出る足は不定(5~7足)。右ウケより続き、最初、左へ出るときは右足を左足にかけて(ねじるときもある)、左足から左、右、左と3足出る。次に右へは、左足を右足にかけて向きを変える。曲により右へ出る足数が異なる。向きをかえるときに、体がぐらぐらしないように腰を水平に使って動く。

①右をうけ、両手を広げる

②右足をかけて、左へねじる

③左へ向き、左手は胸前へ出し、左足より進み始め、右手は下ろす

④左、右、左と3足進む

⑤そのまま、左足で拍子を1つ踏む(左拍子)

⑥左足をかけながら、右手の扇を上げ、右へねじる

⑦右足より右の方へ進む

⑧5~7足出たところで、正先の方向へ右足をかけながら扇を少し下げ、にぎりをゆるめる

拍子の踏み方:拍子を踏むときは、しっかり構えて腰が上下に動かないように踏むことが大事。足を上げたときに体が左右上下にゆらゆらしないよう、腰を安定させて踏む。足を上げる高さは、拍子の強弱によって膝の高さが変わる。強く踏むときは高く上げ、弱く踏むときは低くする。足裏全体を使うが、かかとの方で音を出すようにする。大きな音でもうるさい音はよくない。響き抜ける音がよい。

■大左右~正先へ打込(前に出る打込)

 大左右から続き、ワキ正から正先へ手前をえぐるように曲線を描いて出る型。進みながら打込の扇扱いをする。扇を頭上より体の中心線を通り腰の位置まで下げ、胸前でサシ込の形にする。ワキ正で向きを変えるときには、右足を左足のすぐ側に正先の方向より深めにかけ、その後ねじる足を使う。体がぐらぐらしないように腰を水平に使って動く

①正先より深めに向きをとり、扇を頭上より下ろし、

②手前をえぐるように、曲線に進む

③正先で扇を腰の位置まで下げる

④右手がサシ込、右足で止まる

扇の握り:扇を右横に出したとき、にぎったままではなく、親指をすべらせて扇をつまむように持ち替える。扇のにぎりをゆるめる、扇をはなす、または捨てるともいう。そのまま上へ上げ、下ろしながら元の持ち方へ戻す。

■開

打込みの後に、両手を大きく広げながら左右左と3足下がり、開く。

■サシ回シ・開

 サシは前方をさす型で、原則的には右手でいたし、扇は開閉どちらもある。左右と2足下がりながら扇扱いをするが、サス前の準備動作も含めての流れとなる。サシは扇が目的をとらえ、その延長に景色を示し、回シはさしたまま、右斜め前へふくらんだ曲線を描きながら3足出る型。開を伴う。

■角へ行・扇カザシ

 カザシ扇の原型は手をかざして遠くを見る形で、日常的な動作を舞の型に取り入れたと考えられます。常座よりサシたまま角へ進み、左足で止まり、次にカザシ。なれてくると、一連の流れで角で止まると同時に扇を扱い、カザシ扇に移る仕方をいたす。角で広げた扇をカザシ、気持ちを遠くへ向ける。カザシたときはひじが完全に伸びないようにする。

■打込み・下居・トメ

 舞の終曲に定型として行なう方。扇を上から前へ打ち下ろす動作で、後ろへ打込むとき(下がる打込)は左右と下がる。扇扱いは、出る打込みのときと同じ仕方だが、足の方はそれとは逆に左右と下がる。右足はそろえずに大きく引いて膝をつく。

①正面へねじりつつ、扇を右下へにぎりをゆるめ

②左足を引きながら、扇を横から曲線を描くように上げ

③扇を常の持ち方に戻しながら前へ下ろし、右足を深く引き

④そのまま体を沈め、下居の構えに

 

背中を大切に:鏡に向かって構えを正しても、見えない背中に隙が出る。前をつくろっても前面は直せるが、前面のみ心を配っても背中が定まらない。背中を意識することによって、自然に緊張感が生まれる。いつも後ろに緊張感を持って舞う。

舞姿:舞姿=構えは役柄によって異なるが、棒立ちとそり立ちは悪しき姿。やや前掛りの構えを基本と考える。 

舞い方(前編)

■下二居(下居)~したにい・したい

 両足のかかとを床につけずに上げ、左膝を低めにするとよい構えになる。かかとが床にべったりとつくと、左膝が高くなってしまう。右足を後ろに引き、体に密着させるようにする。右足の位置が大事。左膝と上体を密着させると、そり構えにならず、横から見た姿に緊張感があり美しさが生まれる。逆は伸びきっただらしない格好になる。左右の足のバランスが大切で、右足は半歩ほど引き、膝をつくとよい。引きすぎると、悪い形となる。

■立~たち

 下二居の体勢から体を引き上げて立つわけですが、腰や両足の太股の筋肉を使って頭の先から立つ。体の中心軸を意識して行なうと美しい動作となる。右足を出しそろえつつ、左のかかとが先につく。重心は左足が主になり、右足はそれを補助する。立ったあとは両足均等に重心がかかる。

■サシ込~さしこみ

 最も基本的な型で、すべての曲に出てくる。無機質で抽象的な方だが、舞う人の心によりいろいろな意味を生じ、表現が生まれる。構えの大きさや、前に進む速度、手を出す速さ・強さ・扇の高さなどで、さまざまな役柄・感情・情景の表現が可能。足数はそのときによって違うが、左足から出て右足で止まるので、必ず偶数歩となる。運びと手の動きの調和が大事。前進し止まったときに集中し、次の開(ひらき)でその集中が拡散する。

①常の構え・扇とじ。立居の姿

②左足から前方へ出始める

③次に右足を出し、それに伴い右手(扇)も前へ上げ始める

④4、6足など、偶数歩出る。目線を遠くへ気持ちも遠くへ。

⑤右手はひじを張るようにして胸の前へ出し、右足で止まる。サシ込の形となる。

 徐々に加速していくが、前進する歩数によって、手の動き(手の上げ方)が変わる。前進しながら、気持ちを一点(右扇のサシ示す方)に集中させる。最後の右足は、やや踏み出しぎみでもよい。

■開~ひらき

 これも基本の型で、すべての曲に出てくる。左右左と3足下がるが、基本的には両手の動きが伴う。サシ込のあとに続くことがほとんどだが、他の型と合わせて用いられたり、足使いのみをすることもある。サシ込で前方に集中した力を、開で拡散するようにする。

①サシ込の形

②サシ込が終わり、開が始まる。左足を小さめに引く。重心は右足にかかる。

③左に重心をかけながら、左足を大きく引く。同時に両手を広げる。

④左足を引きそろえる。重心は両足に。

⑤両手を納める。

 2通りのやり方がある。曲目によって2足で全開し、最後の足で元へ戻すやり方と、2足目で完結し、あと手のみ戻すやり方。

 開の足使いは、つま先を上げてはならない。足の裏全体を使うが、かかとは少しゆるめて引く。ただし体重は前掛りにして、そり構え(後ろに反り返った構え)にならないように。腰が落ちないように、引き上げる。

■左右~さゆう

 左、右とジグザグ(くの字)に出る型で、曲の途中と最後に定型的に行なわれることが多い。左右は左へ2足、右に2足出る。

①右ウケ。常の構えから、両手を広げながら右へ向く。このとき左足をねじる

②右足をかけながら左右の所作に入る

③左前に向きながら、右手を下ろし始める

④左手は胸前の位置に、右手は下ろしながら、左足から出る

⑤左右と2足出、足をそろえる。右手は納める

⑥右の方へ両足をねじりながら、右手を胸前に上げる

⑦右前に向きながら、左手を下ろす。右足より出る。

⑧右左と2足出て、そろえる

■打込

 左右のあとには、この型が続く。扇を上から前に打ちおろす動作を打込という。同時に気持ちを前に出しつつ、左右と2足前に出る。正面へねじりながら、右手を腰まで下ろし、手首を返す。左右と出ながら扇を頭上へ上げ、腰を下ろしながら右足をそろえる。

①正面にねじ向きつつ、扇を返し、右横へ広げる

②左足から前へ出ながら、扇を頭上へ上げる

③扇を前へ下ろしながら(打込)、右足を出す

④扇が腰の線まで下がったところで、右足をそろえる

扇・右手の動き:扇を右横、腰の位置へ下げる。手首を返し、そのまま上へ上げ、体の中心線を通り、前へ下ろす。腰の位置まで下ろす。

■扇ひろげ(上扇)~あげおうぎ

 上体をやや前に倒しながら扇を少し上げ、同時に左手もそえる。ただし地紙を持たぬように上側の親骨を前へ押し出し、あとは胸元へ扇を引き寄せるように広げる。右手首を使わないように注意し、また左ひじの張りも大事にする。次に扇のにぎりをゆるめつつ、腰の高さ、右横へ広げる。そして扇先から円を描くように顔の前へ移動させる。扇の下先を身に引きつけるようにし、右腕は肩の高さへ納める。目線は扇の中心あたりへ

①扇を前に出し、左手を広げ、扇の下へそえる

②扇の親骨を持ち

③左親指で扇の上の親骨を前へ出す

④扇の骨を手前へ引きながら、広げる

⑤左手を扇からはなす

⑥肩と床を平行にし、にぎりをゆるめる

⑦腕全体を使って、体の右横へはずす

⑧小指側の扇先から上げ

⑨曲線を描くように

⑩顔の前へ下ろす

⑪扇の先と先を結ぶ線が、目の前にくるように納める

■上扇・開・右ウケ

 開のときの扇の動きを上扇という。もしくは、扇を顔の前にかざす型を上扇と呼ぶ。この型の後に右ウケをして、大左右に続く一連の定型的な所作に移る。

①立った構えで、扇を前へ出す

②左足を引き、開の足使いに入る

③右足を引きながら、扇を上げていく

④左足を引きそろえたときに、扇が頭上にあがる

⑤体全体で少し右に向き(右ウケ)、扇を下ろし始める

⑥扇を下ろしたところで、そのまま構えの姿勢

右ウケ:右ウケとは右へ向く意。基本はねじる足を使い、右へ向く。左右の場合は両手を広げる動作を伴うが、かけて受けることもある。体の向きの変化と足使い、腕の動きのバランスが最も難しい型。流れにのって手の上げ下げ、足の動きをする。本来、上扇・開と右ウケは別のものだが、一連の流れとして連動した動きとなっている。右ウケは次の左右の前動作と考えられる。そして左右のあとは、ほとんど打込の型へ続く。

 

舞の基本

 

■構え(カマエ)

 基本姿勢。所作(型)のこと。腰と下腹に力を集中させ、背筋を伸ばし、四方(上下・左右・前後)のバランスを保つ。すべての所作は構えに終始。

■下ニ位(舞のはじめと終わりの型)

 舞い始めるときと終わりのとき、片膝を立てて下に居る型。立っているところから右足を引き、そのまま右膝を床につけ、左膝を立てる。両つま先を立て、右のかかとに軽く腰をのせる。左手は膝頭に当て、右手は扇を握って膝の上におく。目線は目の高さの前方に、上半身は真っ直ぐに、腹部に力を込めて背筋を伸ばし大きく構える。

■常の構え(立つとき)

 立ち姿の基本の型。舞いはじめにも途中でも、この型から始まり、この型へ戻る大事な構え。しっかり床を踏みしめる。目線は目の高さで遠くにおく。両足をそろえ、下腹に力を入れて立つ。両膝にはゆとりをもたせ、両腕は丸みをもたせる。

 左右に体が傾かないように均等に重心をおき、やや上半身を前へかけ、腰を少し後ろへ引きバランスを保つ。頭は上へ引き上げる。左手は扇をもつ右手と同じようにし、軽く握る。

■運び(ハコビ=すり足)

 普通に歩くのではなく、腰で体を運ぶような心持ちで、すり足で、上体が揺れたり上下しないように、滑るように運ぶ。足の裏全体で、床をするように運歩する。腰に力を集中させ、構えを崩さないように移動する。

①均等に立つ

②左足を滑らせるように出す

③左足のつま先を上げる

④左足へ体重を移しながら、つま先を下ろす(かかとを上げすぎない)

⑤右足を滑らせるように出す

⑥右足のつま先を上げる

⑦右足に体重を移しながら、つま先を下ろす

⑧繰り返す

■足の原則

●出る足

1、前へ出るときは、左足から出る。

2、左へ出るときは、左足から出る。

3、右へ出るときは、右足から出る。

4、左右と下がったあとは、左足から出る。

●止まる足

1、常の構えで止まるときは、左足で止まる。

2、右手が出ている(上がっている)ときは、右足で止まる。

3、左手が出ている(上がっている)ときは、左足で止まる。

4、角(すみ)へ出たときは、左足で止まる。

5、両手を広げて止まるときは、左足で止まる。

●下がる足

1、左足から下がる。

2、開(ひらき)の足は3足(左・右・左)で下がる。

3、サシの足は2足(左・右)で下がる。

●向きを変える動作(ねじる・ひねる)

 足の位置(立っている場所)をかえずに、出る方向に足を向ける。ねじるときは体重をややつま先にかけながら、腰の力(ひねり)で行なう。

1、右へねじって、右へ進む。体重を左に移動させながら向きをかえると、スムーズに足が出る。

2、左へねじって、左へ進む。体重を右に移動させながら向きをかえると、スムーズに足が出る。

●かける

 向く方向に対して、外側の足を内側の足のすぐ前へ、向く方向へもっていく。向く方向によって、かける足の深さ(角度)が異なる。

1、右へ向くときのかけ方は、左足をかけて右へ出る。左足は右足のつま先の方向へ丸みをつけて出す。その出し方は向く角度によって異なる。体重を出した足にかけながら、右足を同じ方向に向ける。その後、右足から進む。

2、左へ向くときのかけ方は、右足をかけて左へ出る。右足は左足のつま先の方向へ丸みをつけて出す。その出し方は向く角度によって異なる。体重を出した足にかけながら、左足を同じ方向に向ける。その後、左足から進む。