虚の身体をつくる

日本の舞踊 渡辺保著 岩波新書 28Pより

舞踊の身体でまず大事なのは、その舞踊にふさわしい基本的な様式を身体がもっているかどうかである。

二代目藤間勘右衛門は、入門した弟子の身体を見て、この子は踊れるかどうかがすぐにわかるといっている。つまり骨格が柔軟かどうかなのである。

そしてまず柔軟な身体の子を選んで、男なら女の踊りを、女なら男の踊りを習わせる。日常的な身体を切り捨てていわば虚の身体というべきものをつくるためである。

この虚の身体が、様式をつかむ。

踊のように様式性の少ない、自由さのある身体でもこれだけのことが必要である。

まして能の舞のような様式性の強い舞踊では、その身体の様式性が大事になる。その基本が「構え」である。

両足を揃えて立ち、右手に扇または中啓をもち、左手で軽く袖口をつかみ、両ひじを少し張った形である。この構えを見れば、一瞬にしてこの人はどのくらい舞ができるかが即座にわかる。

舞ばかりではなく、この構えは、能全体の身体の基本形であり、この基本形から舞も能のドラマの部分の変身もふくめた、全ての身体の動きが行われる。この構えさえしっかりしていれば、どんな人物、精霊にも変身できる。
いわば、この構えこそ動きの基本形であると同時に、さまざまな役に変化する可能態として身体のかたちなのである。

引用ここまで

こちらのサイトに、能の構えがあります。

能の稽古シリーズ⑧rtokuff.wordpress.com

 

身体様式のありようは、その人の日常生活の動きを見れば、すぐにわかります。

その人の基本形が、所作のすべてにあらわれるからです。

舞人は、日常生活において、日常的な身体の使い方を切り捨てていることがあります。

男性か女性かというより、この世のものかこの世ならざるものかくらいの感じで。

 

虚の身体をつくる。

そして、虚の身体で様式をつかむ。

実の身体では、様式をつかむことはできません。

霊威ある大蛇や姫の舞は、実の身体では舞えないのです。

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大蛇面と姫面

晦日と元旦の舞に向け、基本をやり直しています。