舞い方(前編)

■下二居(下居)~したにい・したい

 両足のかかとを床につけずに上げ、左膝を低めにするとよい構えになる。かかとが床にべったりとつくと、左膝が高くなってしまう。右足を後ろに引き、体に密着させるようにする。右足の位置が大事。左膝と上体を密着させると、そり構えにならず、横から見た姿に緊張感があり美しさが生まれる。逆は伸びきっただらしない格好になる。左右の足のバランスが大切で、右足は半歩ほど引き、膝をつくとよい。引きすぎると、悪い形となる。

■立~たち

 下二居の体勢から体を引き上げて立つわけですが、腰や両足の太股の筋肉を使って頭の先から立つ。体の中心軸を意識して行なうと美しい動作となる。右足を出しそろえつつ、左のかかとが先につく。重心は左足が主になり、右足はそれを補助する。立ったあとは両足均等に重心がかかる。

■サシ込~さしこみ

 最も基本的な型で、すべての曲に出てくる。無機質で抽象的な方だが、舞う人の心によりいろいろな意味を生じ、表現が生まれる。構えの大きさや、前に進む速度、手を出す速さ・強さ・扇の高さなどで、さまざまな役柄・感情・情景の表現が可能。足数はそのときによって違うが、左足から出て右足で止まるので、必ず偶数歩となる。運びと手の動きの調和が大事。前進し止まったときに集中し、次の開(ひらき)でその集中が拡散する。

①常の構え・扇とじ。立居の姿

②左足から前方へ出始める

③次に右足を出し、それに伴い右手(扇)も前へ上げ始める

④4、6足など、偶数歩出る。目線を遠くへ気持ちも遠くへ。

⑤右手はひじを張るようにして胸の前へ出し、右足で止まる。サシ込の形となる。

 徐々に加速していくが、前進する歩数によって、手の動き(手の上げ方)が変わる。前進しながら、気持ちを一点(右扇のサシ示す方)に集中させる。最後の右足は、やや踏み出しぎみでもよい。

■開~ひらき

 これも基本の型で、すべての曲に出てくる。左右左と3足下がるが、基本的には両手の動きが伴う。サシ込のあとに続くことがほとんどだが、他の型と合わせて用いられたり、足使いのみをすることもある。サシ込で前方に集中した力を、開で拡散するようにする。

①サシ込の形

②サシ込が終わり、開が始まる。左足を小さめに引く。重心は右足にかかる。

③左に重心をかけながら、左足を大きく引く。同時に両手を広げる。

④左足を引きそろえる。重心は両足に。

⑤両手を納める。

 2通りのやり方がある。曲目によって2足で全開し、最後の足で元へ戻すやり方と、2足目で完結し、あと手のみ戻すやり方。

 開の足使いは、つま先を上げてはならない。足の裏全体を使うが、かかとは少しゆるめて引く。ただし体重は前掛りにして、そり構え(後ろに反り返った構え)にならないように。腰が落ちないように、引き上げる。

■左右~さゆう

 左、右とジグザグ(くの字)に出る型で、曲の途中と最後に定型的に行なわれることが多い。左右は左へ2足、右に2足出る。

①右ウケ。常の構えから、両手を広げながら右へ向く。このとき左足をねじる

②右足をかけながら左右の所作に入る

③左前に向きながら、右手を下ろし始める

④左手は胸前の位置に、右手は下ろしながら、左足から出る

⑤左右と2足出、足をそろえる。右手は納める

⑥右の方へ両足をねじりながら、右手を胸前に上げる

⑦右前に向きながら、左手を下ろす。右足より出る。

⑧右左と2足出て、そろえる

■打込

 左右のあとには、この型が続く。扇を上から前に打ちおろす動作を打込という。同時に気持ちを前に出しつつ、左右と2足前に出る。正面へねじりながら、右手を腰まで下ろし、手首を返す。左右と出ながら扇を頭上へ上げ、腰を下ろしながら右足をそろえる。

①正面にねじ向きつつ、扇を返し、右横へ広げる

②左足から前へ出ながら、扇を頭上へ上げる

③扇を前へ下ろしながら(打込)、右足を出す

④扇が腰の線まで下がったところで、右足をそろえる

扇・右手の動き:扇を右横、腰の位置へ下げる。手首を返し、そのまま上へ上げ、体の中心線を通り、前へ下ろす。腰の位置まで下ろす。

■扇ひろげ(上扇)~あげおうぎ

 上体をやや前に倒しながら扇を少し上げ、同時に左手もそえる。ただし地紙を持たぬように上側の親骨を前へ押し出し、あとは胸元へ扇を引き寄せるように広げる。右手首を使わないように注意し、また左ひじの張りも大事にする。次に扇のにぎりをゆるめつつ、腰の高さ、右横へ広げる。そして扇先から円を描くように顔の前へ移動させる。扇の下先を身に引きつけるようにし、右腕は肩の高さへ納める。目線は扇の中心あたりへ

①扇を前に出し、左手を広げ、扇の下へそえる

②扇の親骨を持ち

③左親指で扇の上の親骨を前へ出す

④扇の骨を手前へ引きながら、広げる

⑤左手を扇からはなす

⑥肩と床を平行にし、にぎりをゆるめる

⑦腕全体を使って、体の右横へはずす

⑧小指側の扇先から上げ

⑨曲線を描くように

⑩顔の前へ下ろす

⑪扇の先と先を結ぶ線が、目の前にくるように納める

■上扇・開・右ウケ

 開のときの扇の動きを上扇という。もしくは、扇を顔の前にかざす型を上扇と呼ぶ。この型の後に右ウケをして、大左右に続く一連の定型的な所作に移る。

①立った構えで、扇を前へ出す

②左足を引き、開の足使いに入る

③右足を引きながら、扇を上げていく

④左足を引きそろえたときに、扇が頭上にあがる

⑤体全体で少し右に向き(右ウケ)、扇を下ろし始める

⑥扇を下ろしたところで、そのまま構えの姿勢

右ウケ:右ウケとは右へ向く意。基本はねじる足を使い、右へ向く。左右の場合は両手を広げる動作を伴うが、かけて受けることもある。体の向きの変化と足使い、腕の動きのバランスが最も難しい型。流れにのって手の上げ下げ、足の動きをする。本来、上扇・開と右ウケは別のものだが、一連の流れとして連動した動きとなっている。右ウケは次の左右の前動作と考えられる。そして左右のあとは、ほとんど打込の型へ続く。