悪性のナルシシズムと良性のナルシシズム~パフォーマーは悪性のナルシシズムを克服した方がいい。

悪について エーリッヒ・フロム

狂気とナルシシズム

正気と狂気との境界線にあるナルシシズムの特殊な例は、権力が異常に大きくなった人に見出される。

精神病は絶対的ナルシシズムの状態であり、外的事実と全く断絶し、そして自分自身を現実に対する代償とする。

彼は全く自己のことで満たされ、自分自身に対して己が神であり世界そのものとなる。

 

ナルシスティックな人の特徴

ナルシスティックな人は、どうして見分けられるのか?

それは自己満足のあらゆる徴候があらわれているような人である。

一般に彼は他人の言葉を聞いていないし、ほんとうの関心を示さない。

いかなる批評に対しても過敏である。

ナルシスティックなオリエンテーションは、内気と謙遜の態度の背後にかくされている可能性が多い。

外界に対して真の関心を欠如することは、ナルシシズムのあらゆる形に共通である。

ナルシシズムの程度が強くなればなるほど、ナルシスティックな人は失敗の事実を認めたり、他人の正当な批判を受け入れたりすることができなくなる。

 

ナルシシズムの病理

①合理的判断が歪められる。自分と自分のものは過大評価し、他のものはすべて過小評価する。

②批判に対し感情的に反応する、

抑うつの感情。ナルシシズムがひどく傷つけられ維持できなくなると、彼のエゴは崩壊する。この崩壊に対して内部で起こる主観的反射がうつの感情。

 良性のナルシシズムの場合、その対象となるのは、その人の努力の結果。人を仕事にかりたてるエネルギーはだいたいがナルシシスティックな性質をもつものの、仕事そのものが現実とのかかわりを必要とするという事実によって、ナルシシズムは限界を超えないよう抑えられている。良性のナルシシズムの特徴はすべて、成果に目を向けているということ。

 悪性のナルシシズムの場合、その対象はその人が持つものである。身体、外見、健康、富など。

 

集団的ナルシシズムの病理

①客観性と合理的判断の欠如、

②自分が属する集団は優秀で、他はすべて劣っているというイデオロギーに基づく「満足」

③集団はそのナルシシズムを自己と同一視できる指導者に投影し、強力な指導者に服従する。

 

 ナルシシスティックな人は、他人の現実が自分の現実と違うことを認識できません。ナルシシスティックなこだわりがあると、外の世界へは関心がほとんど向けられません。ナルシシスティックな性向はつつしみや謙遜の陰に隠れていますが、どのような形で現れようと、外すべての形のナルシシズムにおいて、外の世界への真の興味が欠けています。

 ナルシシズムには良性と悪性があります。良性のナルシシズムの場合、その対象はその人の努力の結果です。そのため、仕事そのものが現実とのかかわりを必要とするため、セルフチェックが働き、結果としてナルシシズムは限度を超えないよう抑制されています。

 悪性のナルシシズムの場合、その対象はその人がしたことや生み出したものではなく、その人が持つものとなります。仮初めの自己の偉大さを維持するために、どんどん現実から自分を分離していきます。

 

ナルシシズムの7つの大罪(ホッチキス・サンディー)

①恥知らず

恥は、すべての不健全なナルシシストの下に潜む感情である。彼らは健全な方法で恥を処理できない。

②呪術的思考

ナルシシストは「魔法の思考」として知られる認知の歪みや錯覚を使って自分自身を完璧と見なす。彼らはまた、他人に恥を「掃き出す」ために投影を用いる。

③傲慢

自我収縮を感じているナルシシストは、他人の衰退、脱走、堕落を知ることで、自我を「再膨張」させることができる。

④羨望

ナルシシストは「軽蔑」を使用して他人の存在や業績を最小化することで、他人の能力に直面した際に優位性を確保する。

⑤権利意識:自分が特別であると考えているため、ナルシシストは特別有利な扱いやノーチェック・パスなど、根拠のない期待をしている。彼らは求める承服がなされないと、その優位性への攻撃だとみなすため、周囲からは「厄介な人」「困難な人」とみなされている。ナルシシストへの意志の抵抗は、自己愛の傷つきとして自己愛憤怒を引き起こす。

⑥搾取

他者の気持ちや関心に関わらず、ナルシシストは常に他者を搾取する存在であり、それは様々な形となる。それはしばしば抵抗が難しいか、不可能な立場の人をターゲットとする卑劣なものになりうる。時には従順になるがそれは本心からではない。

⑦境界線の不全:ナルシシストは他者との間に境界線があることを理解していない。他人とは別個の存在であり、自分の延長線ではないことが分からない。己のニーズを満たさない他人は、存在しないのと同じである。ナルシシストに自己愛を供給する人々は、ナルシシストの一部として扱われ、主人の期待に応えることが要求される。ナルシシストの心には自己と他者の境界はない。

 

 悪性のナルシシストのパフォーマンスは、一見して幼稚(やり方などが大人らしく成長してはいないこと。子供っぽいこと。)です。パフォーマンスに限らず、装束や発言、態度、体型なども幼稚です。悪性のナルシシスト集団のパフォーマンスは、お遊戯会とか学芸会のように見えます。本人たちは、呪術的思考によって認知の歪みや錯覚を使って自分自身を完璧と見なしているので、失敗の事実を認めたり、他人の正当な批判を受け入れたりすることはありません。

 誰も注意はしてくれないし、注意されたところで、ナルシシズム全開なので行動の修正はしません。結果として、「不幸な人たち」と認識されるようになってしまいます。自分たちで自分たちを賛美するという道化になってしまうことになります。「軽蔑」を使用して他人の存在や業績を最小化することで、他人の能力に直面した際に優位性を確保しようとするため、新しい能力の獲得も難しくなります。

 自分がナルシシズムをやらかしている自覚がないと、不幸に歯止めがかからなくなります。パフォーマーは、悪性のナルシシズムの克服を心がけた方がいいと考えています。