山の神~祖霊としての蛇神~至高最貴の祖先神=蛇身即神~「山即蛇」、山の神は蛇。大蛇(ヲロチ)

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山の神 易・五行と日本の原始蛇信仰 著:吉野 裕子 講談社学術文庫

山の神 易・五行と日本の原始蛇信仰 著:吉野 裕子 講談社学術文庫 より


日本の古い社の祭神の起源、原像を探ると、伊勢神宮、賀茂、稲荷、諏訪などの大社をはじめ、ほとんどの場合、その行きつく先にあるものは祖霊としての蛇神である。3P

日本蛇信仰における蛇は、世界各原始蛇信仰に見られたと同様に祖先神としての蛇であって、それは従来、日本民俗学その他で定説となっている単なる「水の神」というような低次元の神ではない。私見によれば、蛇は絶対に祖霊であり、祖先神である。28P

古語拾遺』(807年)に、「古語に大蛇を羽羽(ハハ)といふ」とみえ、一方、『和名抄』には「蟒蛇(うはばみ)」を「夜万加加智(カマカカチ)」と訓んでいる。この場合、「チ」は霊格を表す語なので、これを外せば、「カカ」が残る。つまりカカもハハも共に大蛇の名で、KとHの子音転換によって、カカからハハになったと思われる。

しかし現在も「ヤマカガシ」とか「ヤマカカ」といい、蛇を「カガチ」ともいうので、カカは実は死語ではない。38P

さらにカカ、ハハは共に「カ」「ハ」の畳語であって、原語は「カ」「ハ」と推測される。「カ」を蛇のもっとも古い言葉とすれば、「神(カミ)」もまた蛇そのものを指すことばではなかろうか。

「神(カミ)」も古形は「カム」(『岩波古語辞典』)

「身(ミ)」の古形は「ム」

それならば、神とは、

●蛇身(カム)=蛇身(カミ)=神

という推理も可能である。蛇が古代日本人にとって至高最貴の祖先神であるならば、蛇身即神であっても少しも不思議ではない。40P

「大山津見」もこれを「大山の蛇(オオヤマツミ)」とし、「ミ」を祖霊の蛇、ととればこの神も正しく蛇神である。44P

火神とされるカグツチも実は蛇の霊(カカツチ)であって、蛇に還元することのできる名称である。火神カグツチを蛇神に還元すれば、蛇の子は蛇なので、当然その所生の八柱の山の神々は蛇ということになる。45P

カグツチの本来の名は「カカヒコ」。「ヒコ」は男性の尊称なので、「カカヒコ」は「蛇大神」を意味する。

蛇の大神から所生したした山の神々の本質は親と同じの蛇に相違なく、神話記述者も究極的にいいたかったことは、やはり「山即蛇」、山の神は蛇、ということではなかったろうか。46P

ヤマタノオロチは『記』には、八俣遠呂智『紀』には、八岐大虵、と記されている。「虵」は蛇の意で、これを「ヲロチ」と訓んでいるが、「ヲロチ」には本来、蛇の意はない。それは「ミヅチ」「ノツチ」が、「水の霊(ミツチ)」「野の霊(ノツチ)」から転じて蛇になっている場合と同じである。それでは、「ヲロチ」の原意は何であろうか。

「をろち〔大蛇〕《ヲは峰。ロは助詞。チはミヅチ・イカヅチなどのチで、激しい勢いのあるもの》大蛇。うわばみ。」(『岩波古語辞典』)

「を〔峰・岡〕①《「谷」の対》みねつづき。尾根。②山の小高い所。」

「ろ〔助〕①上代、文末などにつき、親愛、感動の意を表す。」

「ち〔霊〕原始的な霊格の一。自然物のもつ激しい力・威力を表す語。」

以上を総合とするヲロチとは、峰の霊(ヲロチ)を意味し、山々の連なりを暗示する「山脈(やまなみ)の主」ということになる。つまり日本人は蜿蜒(えんえん)と続く山脈に巨大な蛇を連想し、山々の連なりに祖神の姿を感得したのであった。

ヲロチとは単に峰の主の意に過ぎない語であるにもかかわらず、このヲロチなる語をそのまま大蛇を意味する語とした古代日本人の心象風景の中にあるものは、連なる山脈そのものが蛇であり、そこに見えるのは巨大な動く蛇であった。

蛇は祖霊なので古代日本人は自然物の中では、川にも風にも野にも道にも蛇を感得した。その中でもとりわけ崇高な祖先神中の祖先神、祖霊中の祖霊が、山の神、大蛇であった。

……最高最大の山の神、八俣遠呂智の霊力賛歌……50-55Pより抜粋

 引用ここまで

 

山の神の舞は、すなわち『大蛇(をろち)の舞』だと考えております。祖先神中の祖先神の舞であり、祖霊中の祖霊の舞なのだと、舞うたびに強く感じるようになりました。男祖先神としてのヤマタノオロチの舞は、古代日本人の心象風景をうつしだすのではないかと思います。