竜宮・龍宮と海神と蛇

■龍宮・竜宮(りゅうぐう)

竜宮城、水晶宮、水府は、日本と中国に伝わる海神にまつわる伝説に登場する海神の宮。龍(たつ)の宮、龍(たつ)の都、海(わたつみ)の宮などとも呼ばれる。河川、湖沼が龍宮への通路となっている場合もある。

綿津見神宮(わたつみのかみのみや)

わたつみは「海の神霊」の意味。海宮、海神宮、海童宮とも書かれ「わたつみのみや」とも称される。海神が住む宮殿の名称。

■『続仙伝』

竜王が住む水中にある宮殿として龍宮が登場。唐の時代の名医・孫思邈(そんしばく)は蛇を助けて龍宮に行き、龍王から30種類の製薬の方法を教わったという説話がにある。

■八岐大蛇(ヤマタノオロチ

原初出雲の古層の龍蛇神(りゅうだしん)。海神(わたつみ)説がある。

安倍晴明物語~安倍の童子小虵をたすけ并竜宮に行て秘符を得たる事

 安倍の童子住吉大社に詣でた際、子供たちが集まって小さなへび(虵)を捕まえて殺そうとしているのに出会う。童子はへびを不憫に思い、これを買い取り、「人の多いところへ出るな」と諭し、草むらに放してやった。童子が安倍野へ帰ろうとすると、突然美しい女性が現れ、自分は竜宮の乙姫であり、先ほど殺されそうになったところを助けてもらった恩返しに竜宮へ招待すると言う。童子はこの誘いを受けた。
 わずか1町(約1km)ほど歩くと大門に到着し、そこを入ると宮殿楼閣がそびえ立ち、庭には金銀の砂が敷かれ、垣には玳瑁(たいまい)が飾ってある。さらに奥へ進むと宮殿楼閣の四方に、それぞれ四季(春・夏・秋・冬)の景色が広がっている。宮殿楼閣は七宝で装飾され、荘厳で美しいことこの上ない。乙姫に誘われ、豪華な内装をしつらえた宮殿に上がると、高貴な装いの男女が待っていた。この貴人たちは童子を招き寄せ、「我が娘の命を助けてくれた御恩に報じます」と言うやいなや、美しい女性が2、30人、手に仙郷の珍味を捧げもってこれを並べ、宴席が設けられた。宴が終わると、竜王は金の箱を取り出し、「これは竜王の秘符である。天地日月人間世界のすべての事がわかるようになる。名を揚げ、人々を助けよ」と告げて童子に渡した。さらに七宝の箱から一青丸を取り出し、童子の目と耳に入れた。
 乙姫に伴われ童子が竜宮を辞去すると、1町も行かないうちに安倍野に出た。家に帰りついて、人の顔かたちを見ると、その人の過去・未来が心に浮かんでくる。さらに鳥や獣の鳴き声を聞くと、その意味が手に取るようにわかる。最初は訝しんだが、その原因が竜宮の薬にあることに思い当たった。

竜王信仰(「平凡社 世界大百科事典 鈴木 健之」より)

 竜王は古代中国における想像上の霊獣である竜の人格化した神。仏教の八大竜王の信仰とも習合している。海、河、湖に住み,天の至高神〈玉皇大帝〉の配下で雨と水をつかさどる。河竜王は河水の調節をし、海竜王津波や潮を起こすともいわれ、漁村では海上の守護神ともされた。かつてはいたるところに竜王廟があり、または関帝廟、土地廟に合祀され、古来農村では雨乞いの対象であった。

 一般に雨乞いは村共同で竜王に祈願し、竜王の木や泥の像か位牌をかついで練り歩き、竜が住むとされる河辺、池、井泉に詣でた。地方によっては、像を烈日にさらす、棒で打つ、石を投げつけるなど竜王を虐待したり、池を汚濁させたり、近村から像を盗んできたり、感謝の奉納芝居を打つなどさまざまな儀礼習俗が行われた。

 説話に見える竜王はたいてい魚、貝、亀、蛙など〈水族〉を従えて竜宮に住み、宝物を所蔵し、娘〈竜女〉や太子がいる。竜王の子を放生(ほうじよう)して果報を得る話や竜宮女房型の話にもよく登場する。

■日本の龍王信仰(「平凡社 世界大百科事典 中尾 尭」より)

 日本では古く《日本書紀》に,〈豊玉姫まさに産せんとするに,化して竜となる〉とある。竜宮がはるかな海中にあるとされるように竜は基本的に水神としての性格を帯び,女神としての柔和さと,天にかけ登る荒々しさを兼ね備えた動物神である。しばしば蛇神と混交され,竜王あるいは竜神と呼ばれて庶民信仰や説話のなかに大きな位置を占めている。日本では水神として竜神がまつられ,雨乞いのときには竜神池の水を汲んで祈禱する例は多い。

■日本の海神(「平凡社 世界大百科事典 北見 俊夫」より)

 一般には水神の表徴である蛇信仰が中国の竜信仰と結びついた竜神の同意語として、竜宮・竜王などと呼ぶ場合が多い。海神を祭る神社の主要なものとして、宗像(むなかた)大社、住吉神社、大山祇(おおやまづみ)神社、金毘羅社などが全国的に勧請流布している。海神祭は神霊を奉安した御輿を海中渡御(とぎよ)するものをはじめ、御旅所神幸や競漕するものなどが見られる。沖縄本島北部の村々では、海神を迎える海神(うんじやみ)祭が盛んで、海神と山神との交遊する日の祭りという。付随して爬竜(ハーリー)と呼ぶ舟漕ぎ競争が催される。ハーリーは中国から伝来したといわれ,長崎のペーロンも同系統のものと思われる。海民の海上での禁忌は厳しく、沖言葉という忌詞(いみことば)がある。なかでも蛇、猿という言葉を忌むのが特徴で、蛇は海神の表象だからであろう。

■「中国福建沿岸の諸廟と海神 林国平」

 福建の原初の海神信仰を閩越族にさかのぼって「海神は蛇トーテムであった可能性が極めて高い」とした。これは済州島の蛇信仰にも通じるものとみられる。済州島のチルソン(七星)という神は星ではなく、海の彼方から漂着した八匹の蛇で、これが富をもたらし定着して祖先としてまつられる。また兎山堂の神も朝鮮半島全羅道からきた蛇神でやはり一族、あるいは村の祖先神の扱いをうけている。そのほか蛇を崇拝する民俗はいくつもみられ、それらが血縁の祖先崇拝とはまったく別の祖先観に由来することはよく知られている。