面(おもて)は、神の依代です。

八百万の神々~神楽面の世界 より

能面と伝来の仮面の違いについて考えてみましょう。能面は縄文仮面のように顔の前面に付ける「付け面」です。しかし伝来の仮面は顔全体すっぽり被ってしまう「被り面」です。能面は鬼畜面までも人間の顔をモチーフにしているのに対して、伝来の仮面は何処か人間離れしています。また能面には伝来の仮面にはない中間表情があります。面の角度を照らす、曇らすことによって豊かな表情を表現することが出来ます。これは左右不対称に作られているからです。

民間芸能の仮面は特別の存在として扱われる例がよく見られますが、能でも面は他の道具以上に大事にされます。移動時も肌身離さず持ち運びます。

白式の翁は遠方から訪れる貴い神と考えられており、黒式の翁は地元の神と考えられています。共に太夫が面を付けることによって神となるのです。まさしく面は神の依代です。

引用ここまで

f:id:orochinomai:20200206222329j:plain

瓊瓊杵尊 神面

その昔、人形には魂が入ると信ぜられていました。そして、面(おもて)も依代となり得ました。面は、舞人が己の心を託すものであり、神・魂が宿る「依代」であり、儛の「要」だと言われてきました。単に変身の手段ではなく、「依代」として大切に扱われています。

面には、見る角度によりその喜怒哀楽の表情を変えるというという特徴があります。それに加え、霊魂を乗り移らせるという依代的役割=咒術的道具としての機能があります。舞人の息吹を封じこめ、面は神の依代となるのです。これにより、具体的な表現を削ぎ落とせるため、観る者が自由に想像できるようになります。

素顔で喜怒哀楽を見せる顔芸に頼らず、あえて面を付けます。表情筋の動きを隠すことで、自己存在そのものでもって内なる情念を醸し出します。舞面は、舞いを重ねる度に舞人の顔と一体化していきます。まるで、舞人そのものが依代になったように見えます。観る者は、その姿に咒力を感じます。